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イチイ(アララギ)とキャラ


  千葉県など暖地に多いキャラ(一般にはキャラボクと言うらしいが、そう言う名を千葉で聞いたことはない)と寒冷地のイチイ(別名をアララギとも言いアララギ派で有名)とはどう違うのか、イチの別名をキャラボクと言う説もあるが、感覚的に全くの同種とは思えない面がある。そこでこれを考えてみた。

いちい科の裸子植物

上田城址のイチイの木、中程度 上田城址のイチイの木、大木

 イチイは寒冷地の植物だから上田城址にも多数のイチイがあった。長野に限らず、東北などもイチイは多いようである。

蓼科の親戚のイチイとキャラ

 蓼科の叔父の家に、イチイとキャラボクが混植されている。これが大変不思議だった。種類が違う木のはずなのに、葉も花もそっくりなのである。イチイはもともとこの地方の木で、自生している小さい木を山から掘ってきて植えたものである。キャラボクは君津特有の木として、千葉県君津郡から移植したものである。

 叔父も私も、当然、別の種類だと思っていた。そう思うに十分な根拠もある。イチイは縦み伸びて常緑喬木の姿を呈する。少し手を入れれば姿ものになる。キャラはそうは行かない。放っておけば横に広がってとんでもない汚い木になる。それを選定して整え、篭を作って初めて庭木になる。その変の性質が全く違うのだ。

 しかし、葉も実も全く同じである。花は地味で観察したことがない。そこで違うとだけ思っていたが、属が同じで種が違うのか、種も同じで亜種(品種)の違いか、それを知りたくなった。叔父は、イチイは葉が細いがキャラは広い、それが違いだと信じているようだ。姿が違う以上、種類も違わなければおかしいと言うわけだ。しかし、その葉の違いは、品種の違い以上に少なく、固体の相違の範囲を出ないように思えた。

キャラふうに仕立てたイチイ イチイの姿物で周囲に並んでいる

キャラとアララギ

 若い頃、務めの関係で千葉県君津郡と言う地域を転々と移り住んでいた。その地方では庭木としてキャラ(キャラボクと呼ぶ地方もあるらしい)が栽培されており、何処の家の庭でもキャラは普通に見られた。キャラは全県的にも生垣、庭木として用いられるが、特に君津郡では庭の主木とすることもおおく、竹を組んだ篭で整形するのが普通であった。

 長野県の親戚の家にでは、イチイが多数植えられ、中心となる主木は松だが、数の点では断然イチイが多かった。イチイは床柱などにも使われ、アララギとも呼ぶと教えられた。そこで短歌結社のアララギの名称の由来がここにあったのではないかと気付いた。アララギの中心歌人が斉藤茂吉であったことを思えば頷けた。

中ほどがキャラで後は赤松、他はサツキ 手前に横に広がっているのがキャラ後は松

長野県の県木は白樺

 そこで長野の県木は当然イチイのような気がしたので調べてみた。するとそれは残念ながらイチイではなくシラカバだった。なるほどと納得できたし、制定した人たちの心情も理解できた。床柱にはなるかも知れないが、イチイでは地味で素朴すぎ、冴えない。いかにも田舎の木である。白樺ならあの白い幹の美しさ、瀟洒な洗練された感覚、観光地として人を呼べそうな印象である。なるほどと感心したのはそのためだ。

 白樺は長野の特有の樹木ではない。が、同様にイチイだって寒冷地に広く分布する喬木である。どちらも県独特でないなら、印象のよいほうがよいではないか。イチイと言えば何となく茅葺農家やソバ畑を連想し、白樺と言えば爽やかな高原と西洋風の建築を思い浮かべるのは私だけだろうか。
 それでは、イチイをシンボルとするところはないのかと探すとあった。日光市もその一つだと言う。イチイクリニックのHPでそれを知った。序でに雑学も学ばせて頂いた。

向かって左がイチイで右がキャラ 逆にイチイふうに仕立てたキャラ

不思議に思ったこと

このようにイチイが並んでいる 生垣は隙間だらけだ

 キャラが千葉県君津地方に多いことは述べた。その地域にはそれに携わる植木職も多い。ところが千葉の県木はマキである。マテバシイ(トウジイ)とするかマキとするかで検討されたようだが、マキの方が木の姿が品がいいだろう。
 今は地球温暖化で北限は北に上がっているはずだが、かつては北限は千葉県とされていた。茨城県に移植したマキが定着しているから、北限は千葉ではなくなったが、キャラよりは範囲が狭いだろう。私はマキとの連想(君津地方はキャラとマキが多かった)でキャラを暖地の植物と誤解していた。

 それはよいとして、竹篭を使って整形すると、雪の重みで篭がゆがんで形が崩れる。それで南房総に伽羅が多いのかも知れない。北総の植木職でもキャラは作るが、君津のように片っ端から篭をつけるようなことは少ない。しかし、南房総にはキャラは多いし、山の中で自生しているものは伸び放題である。北総地帯ではこう言うことはない。千葉県ではキャラはやはり暖地の植物である。
 ここで、少なくとも、キャラはイチイの別名ではなく、亜種程度の相違はあると考えるのが妥当だろう。

 生垣としては、千葉では南北を問わず使われる。葉が細かいので美しいからだ。寒冷地では、きちんと刈り込まれたイチイの生垣は見ない。隙間だらけの生垣ならある。これは、寒冷地と暖地とでは、目の伸びが違うからと言うこともあろうが、最大の相違は、イチイは立ち易く、キャラは横に広がると言う性質の相違が最大の理由だろう。

結論は亜種の違いか

 動物でも植物でも、所変われば品変わるもので、だからと言って本質的な違いではないだろう。植物図鑑などで詳細に検討したわけでもなく、専門家に聞いたわけでもないが、ここまでよく似ていて、上に伸びるか横に広がるかだけの差なら、イチイもキャラも同種の植物と考えてよいだろう。梅でも桜でも、上に伸びるのもしだれるのもあり、普通は喬木だが、族生する種類もある。と言う訳で、私は品種の相違と独断して納得している。

イチイの実 キャラの実

 家では常にキャラを眺め、長野でイチイに巡り合い、千葉から移植されたキャラと見比べていると、そこはかとなく疑問が沸き、次第にそれが強くなった。植物学や造園に趣味があるわけではないが、疑問が続いていて強まるのは精神衛生によくない。そこで自己流観察と推論で、イチイとキャラの相違を結論付けた。これで気持ちが落ち着いた。

 ここでは、関東固有の庭木かと思っていたキャラが、長野県茅野市の一般家庭の庭で立派に定着していることから、以前から周辺の民家はもちろん、この家でも庭木として使われていたイチイと共存しているので、その類似性と相違を考えてみた。
 最後に、長野県小諸市にある小諸城址には、立派なキャラが存在していることを知ったので、それを紹介しよう。

小諸城址のキャラ
 広大な城址公園の中の一木だから、手入れが行き届いているとは言えないし、姿、形も格別立派とは言いがたい。
 しかし、このような横に広がるキャラの特性は、イチイを無理にキャラふうに仕立てたものとは明らかに違う。これは全くのキャラである。歌碑の一角に植えられていることから、これは自然に生えたものを手入れしたのではなく、他所から持ち込んだものに違いない。長野で普通に見られるイチイとは異なる品種である。